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    あなたがどこにいて、何をしようと、ただ幸せであればそれでいいんじゃないの?

    5月1日はなんにもしてないけれど、朔ごとに記事をあげたらいいんでないの?

    ということで、始めた。
    書架の整理から。





    銀色の花/金蓮花 (集英社コバルト文庫)

    ・頼る者もなく、人の慈悲に縋り生きていくしかないエンジュにとって、この先の未来もいま自分を取り巻く暗闇以上に明るいものになるとは思えなかった。
     エンジュは声を殺して泣いた。
     自分の身ひとつ、それ以外になにものも持たない孤児にとって、生きていくこと自体が、苦行のようにしか思えなかった。
     働くことは嫌いではない。
     誰かのために、なにかをすることは、嬉しいことだと思う。
     だが、報われることのない労働と、望んでも与えられることのない労りを恋しがり、エンジュは泣いた。

    ・二度と帰ることのできない故郷を偲び、切ない想いに胸を焦がし、虚しい時を過ごすよりは、よほど幸せだと思った。
     それも都の平和のために生贄となるのなら、ひいては王国のためにもなるはずだ。
     冷たい視線のなか、人の慈悲に縋って生きるより、誰かのために死ぬほうが生き甲斐がある。
     そこまで考えて、エンジュは思わず小さな笑みを漏らした。生贄として死んでいくのに、生き甲斐という言葉は似つかわしくないと思ったのだ。

    ・シェリダンの言葉に嘘はなかった。
     彼らは聞いているはずだ。自分の瞳が二色であることを。額には痣があることを。
     それを知った上で、彼らは自分を受け入れてくれたのだ。
     それは、エンジュにとって、紛れのない幸せだった。
     この人たちのためならば、私は死ねる。
     エンジュはそう思った。
     もう怖くはなかった。
     心は、先程までの恐怖が嘘のように、凪いでいた。

    ・「アニスさま!」
     キリアンに仕える侍女が、滂沱の涙を流しながら、胸の前で手を合わせる。
     その手が、真っ赤な血に塗れていた。
    「なに、それは!?」
    「殿下が、手首を!」
     ぐったりと長椅子に横たわる、ジュエル。
     彼の白い上着は、朱に染まっていた。

    ・カウルが身を乗り出すようにして、具体的な質問を振ると、アリシアは立て板に水と答える。
     そのふたりのやり取りに、エンジュは入っていけないものを感じた。
     自分の知識が、ふたりには到底及びもつかないものだと思い知らされた気分だった。だから、そのとき「遅くなりまして」と詫びながら、シェリダンが姿を現してくれたことを、エンジュはひとり感謝した。

    ・だが、エンジュは人に命じるだけでお茶を濁すような性格ではない。
     たとえば、見事な果物が盛られていた籠は、エンジュが藤で指先を傷つけながら、編んだものだった。腕のいい職人が作った文箱に象嵌された輝石を磨いたのは、エンジュだった。
     彼女は、その真心をこれ見よがしにひけらかすのではない。無言のまま、奉げるのだ。

    ・クラウディアは錯乱していた。
     いま、力に任せて、クラウディアに無体を強いるのは、オーリなのだ。それなのに、彼女は無意識のうちに、オーリに助けを求めていた。
     その悲しい事実が、オーリを現実に引き戻す。

    ・そこで言葉を一度切り、ベアトリスは静かに含み笑いをした。
    「ベアトリス?」
    「死という厳粛な事実は、優しい一面も併せ持っていますね。個人を手放しで褒めても、誰もが許してくれますから」

    ・感情が高ぶれば、誰に対しても貴様と乱暴に呼びかけ、きつい視線で黙らせてしまうこともあるオーリであったが、彼は人の意見に耳を塞ぐ人物ではなかった。
     彼は、人に学ぶことを厭わない。そして、それを受け入れ、採用し、成功すれば称賛を惜しまないのだ。
     もしも失敗すれば、獅子のように恫喝するが、だからといって簡単に切り捨てることも、見捨てることもない。次に挽回すれば、また取り立てる。
     だから、誰もが己の意見を堂々と開陳することができるのだ。

    ・「怖いですか?」
     アズミへと、矢のごとく馬を走らせながら、マコードは腕の中の橘姫に尋ねた。
    「宮に連れ戻されるほうが怖い」
    「後悔は? ここで死ぬかもしれない」
    「死んだように生きるぐらいなら、あなたと一緒に死にたい!」
     マコードは笑った。
     これほど情熱的な告白を、いままで聞いたことがない。

    ・タチアナは、大きくかぶりを振った。銀の紙が、燦然と輝きながら左右になびく。
     灰色の外套とあいまって、まるで修道女のようだ。
    「あの方を、わたくしから逃がして差し上げたいのです」
     そういうと、タチアナはふたたび振り返り、身体を反転させ、アデレーゼと正面から向き合った。

    ・アデレーゼの船室で、彼女はこういった。
    「わたくしと一緒にいては、あの方は不幸になってしまうのです」
     だから、自分は彼から離れなくてはならないのだと。

    ・「いいえ!」
     タチアナは、激しく首を振った。
    「あの方ではありません。あの方に巡り会えたことは、わたくしの人生の奇跡です」
    「公爵様が、いまの言葉を聞いたら、どれほど喜ばれることでしょう」
    「あの方を、心からお慕いいたしております。でもわたくしは……妻にはなれない。無理なのです。それに、わたくし一人が幸せになることは、到底許される話ではないのです」
    「タチアナ様、……誰が許さないとおっしゃるの?」
    「わたくしの、良心が」

    ・生死すら確かめようのなかったデイジーは、セラウィンで美しく育ち、恋までしているのだ。
    「その相手が皇帝陛下とは……。夫が聞いたら、さぞかし驚いたことでしょうね。叶わぬ想いでも、胸焦がす相手に出会うこともない一生よりは幸せだわ。自分に切りつけた相手のもとにとどまりたいだなんて、あの子も酔狂だわ」

    ・今日を最後に、永遠に別れると思うと、タチアナの心は鋭い刃で切り裂かれるように痛んだ。だが、それがマコードの幸せなのだと思うと、甘んじて受け入れるべき痛みに思えた。
     最後だから。
     最後だから、美しくありたいとタチアナは願った。
     せめて、マコードの記憶のなかで、美しい思い出になりたいと、願っていたのだ。

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    佐藤 朱加

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    http://asaiiro.blog.shinobi.jp/
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